PFS は、空から届いた光のうち 380nm から 1260nm までの部分を、波長ごとの光の強度がわかる「スペクトル」にして記録する分光装置です。分光器に届けられた光は、2枚のダイクロイック鏡で3つの帯域に分けられたあと、それぞれ波長方向に分散がかけられ、青カメラ、赤カメラ、赤外カメラで各帯域のスペクトルが検出器に記録されます。
青カメラ、赤カメラに搭載される検出器は CCD (Charge Coupled Device: 電荷結合素子)です。観測天文学と CCD の関わりは深く長い歴史がありますし、すでにすばる望遠鏡で稼動中の超広視野カメラ Hyper Suprime Cam (HSC)でも大量に使用されています。PFS でも HSC と同じタイプの CCD を使用することでできるだけノウハウを活用し技術的なリスクの軽減ができています。
一方、CCD はせいぜい 1000nm くらいまでしか高い感度が保てないので、赤外カメラではさらに長い波長 (1260unm) まで感度のある別タイプの検出器を使います。この赤外検出器、光が当たって物質から電子が飛び出してくる「光電効果」を利用し光の強さを測るという点では CCD となんら変わりはないですし、天文学における歴史もそれなりに長いのですが、CCD に比べて使用する感光物質や溜まった電荷の読み出し方などに様々な違いがあり、調達から特性を理解するための試験に至るまで、CCD とは違った開発要素や取り扱いの必要性が生じます。
赤外検出器読み出しシステムの開発と特性調査は、テラダイン社の H4RG 検出器を用い、プリンストン大学とジョンズ・ホプキンス大学のメンバーによって行われています。
図1: テラダイン社H4RG 検出器を搭載するためデュワーの作業をする James E. Gunn 教授 (プリンストン大、左)と、Murdock Hart 研究員 (ジョンズ・ホプキンス大, 右)。
「サイエンスグレード」と呼ばれる、PFS の科学運用に十分耐えうるクオリティを持った検出器の調達はすでに完了し、3月、その読み出しに無事成功しました。今後は特性調査と制御の最適化を主な目的とした試験が進められていきます。
図2: 上限の半分程度まで電荷が溜まった状態で読み出した画像。バッドピクセルのかたまりなどは極めて少なくクリーンな検出器であることがわかる。