PFS では、天体からの光をすばる望遠鏡の主焦点で光ファイバーの一端に導入し、もう一方の端から分光器に射出します。主焦点と分光器は物理的にだいぶ離れたところにあり、その間を結ぶ光ファイバーの全長はおよそ 60m にもなります。このうち、望遠鏡の上やドーム建物の中を通る形で敷設される 50m 程度のファイバーケーブルの試作がこの2か月ほどの間にイギリスの PPC Online 社で行われ、ほぼ完成しました。
このファイバーケーブルは、PFS の運用が見込まれる10年以上にわたり望遠鏡上・ドーム内に常設される予定です。つまり、実験室のように高度に管理されて「いない」環境下で長期にわたり充分な性能を維持する必要があります。そのため、ケーブルの構造は、類似した要求が課せられるであろう光通信用ケーブルなどを参考にデザインされています。
具体的にはまず、2400本のファイバーを複数のプラスチックチューブに分け入れ(図1)、そのチューブを引っ張りに強い芯のまわりに糸を撚るように巻きつけていきます(動画1)。こうすることで、ケーブルにかかる引っ張り圧力は全て芯の部分が支えることになり、ファイバーには負荷がかかりません。次に、この撚り上がったまとまりの上にテープを巻きつけ、全体をある程度自由に曲げることができる金属のチューブに通します(図2)。こうすることで、何らかの原因で側面から圧力がかかったり、周囲で水漏れ、油漏れなどが起きたりした場合にも、ファイバーを保護することができます。
動画1:光ファイバーの入ったチューブを芯のまわりに撚り上げているところ。
この試作ケーブルは近々、輸送などに備えた保護構造の取り付けやケーブル内のファイバーの光学性能調査が行われたのち、ハワイのすばる望遠鏡へ送られさらに光学試験が行われます。ここでは、実際の運用に近い形でケーブルが敷設され、望遠鏡の姿勢に応じた光学特性の変化などが詳しく調べられる予定です。
図2:ほぼ完成した試作ケーブル。図2で撚りあげられた部分が金属のチューブに入れられ、コンテナに収められている。