4台の分光器で望遠鏡搭載試験を行いました

      4台の分光器で望遠鏡搭載試験を行いました はコメントを受け付けていません

(太陽暦の)新年が明け既に一か月が経とうとしていますが、PFSプロジェクトでは装置の完成・科学運用の開始に向けて開発を進めています。2023年の終わりごろ、すばる望遠鏡についに4台の分光器が揃いました。その後、4台の分光器と主焦点装置をつなげて望遠鏡試験を行いました[注]。

PFSは一つの分光器で約600本のスペクトルを取得します。各カメラで撮った2次元 (2D) 画像には600本の曲線が写っているのですが、そこから一本一本のスペクトルを抽出するには様々な処理が必要です(こちらの記事も参考)。この2D画像からスペクトルを作るソフトウェアは、プリンストン大学と国立天文台が開発しています。スペクトルの抽出には、画像上の各ファイバーと波長の位置を決める「検出器マップ」と、画像上の各ファイバーの光量の分布を決める「ファイバープロファイル(輪郭)」と呼ばれる二種類の較正データが必要があります。これらの較正用データを11台のカメラ分取得しました。

2D画像の拡大図と、一部の光量をグラフにしたもの。ファイバーを間引いた場合(上)、全てのファイバが光っている場合(下)に比べて個々のファイバーの光量の分布(プロファイル)がよく分かります。

ファイバープロファイルを測定するときに問題なのが、スペクトル同士が微妙に重なり合っていることです。その為、プロファイルを測るには隣のファイバーからの光が邪魔になります(上の図、下のパネルの青線)。この困難に取り組むために、PFIに付けられている54mm厚のガラスには「ドット」と呼ばれる特殊なコーティングが施されています。その名の通り、小さな黒い点(ドット)をつけ、ファイバーに光が入らないようにするためのコーティングです。

左:PFIに付けられているガラス板。黒い点々が「ドット」。
右:ファイバーと「ドット」の拡大図

このようにファイバーを間引いてスペクトルを撮ることで、ファイバーそれぞれのプロファイルを丁寧に調べることができます(上の図、上のパネルの赤線)。「ドット」の後ろにファイバーを動かすには、分光器でファイバーの光量を測定しながら、その光が見えなくなるまでファイバーを少しずつ動かしています。例えば、一部のファイバーだけ「ドット」の後ろに隠すとメトロロジカメラではこのような画像が取れます。

取得した較正データを解析するには非常に手間と時間がかかる為、12月にデータを取得できたことは、2か月後に予定されている試験観測の準備をする上で非常に役立ちます。

またデータ解析ソフトウェアの開発チームはデータ処理のソフトウェアに加えて、処理がうまくいっているかどうか、その質を測る為のツールも開発しています。日頃の定例会議や、対面での集中議論を重ねながら、データ処理と同時にその質についても出力すること、異常や懸念があった場合にはなるべく早く観測者にフィードバックができるように開発を続けています。

データ処理ソフトウェアについて議論している開発チーム

他にも、望遠鏡試験ではファイバー配置にかかる所要時間の短縮化も進めました。特にこの数か月間は、ASIAA(台湾)のチームが配置の個々のプロセスで必要以上に時間がかかっているところを調べ、一つ一つソフトウェアの改良を重ねてきました。その甲斐もあり、以前は約7分かかっていた配置時間を、配置精度を損なうことなく2分にまで短縮することができました。これは効率よく大規模な観測を進めるために重要な進展になります。

このように、ハードウェアだけでなくソフトウェアも完成に向けて準備を進めています。

[注]2023年12月、観測そのものはすばる望遠鏡のトラブルの為に中断されていましたが、観測所の協力のおかげで望遠鏡を動かさなくても可能な試験やデータ取得を行うことができました。