すばる望遠鏡 ドーム床構造 広視野集光器 WFC 広視野集光器 主焦点装置 主焦点装置 ファイバーポジショナー「コブラ」 「コブラ」 分光器 分光器 メトロロジカメラ メトロロジカメラ

観測機器 -- PFSを実現する最先端技術

すばる超広視野多天体分光器 Prime Focus Spectrograph (PFS) は、すばる望遠鏡の主焦点に設置する分光装置です。焦点面に設置するファイバーポジショナーにより、直径1.3度という大きな視野中の、最大2400個の天体を一度に分光観測することができます。

広視野補正光学系 Wide Field Corrector (WFC)

WFC WFC は、HyperSprime-Cam(HSC) の為に新たに開発した光学系で、7枚のレンズからなります。第1レンズ(右図の最下段)は820mmと非常に大きな有効径をもち、光学系全体の長さは1.8mもあります。WFC はPFSの観測にも使われます。

主焦点装置Prime Focus Instrument (PFI)

PFI 主焦点装置は、WFCと一緒にすばる望遠鏡の主焦点に取り付けられる装置です。 主焦点面には約1.25平方度の視野に2400本のファイバーが敷き詰められます。 具体的には、主焦点装置には2394本の観測用のファイバ (science fibers) と、96本の位置校正用のファイバ(fiducial fibers)ーの2種類のファイバーが搭載されています。 それぞれの観測用ファイバーには小さなアクチュエータが取り付けられファイバーを焦点面上の天体に向けて動かすことができます。 位置校正用のファイバは固定されていて、観測用のファイバを動かすときの位置の参照点として使用されます。 ファイバーの先端にはF値を変換するマイクロレンズが取り付けられていて、長いファイバーケーブルを通過した後の像質の劣化を抑えるようにしています。 HSCと結像性能を合わせるために、ファイバーの前面には54mm厚のガラス板が取り付けられていますが、このガラス板には「ドット」と呼ばれる黒い斑点状のコーティングが施されていて、ファイバをこのドットの位置に動かすことにより入射光を遮られるようにしています。 一部のファイバの光を遮ることで、分光器で観測されるスペクトルを間引き、検出器上のスペクトルの端の様子を調べられるようにしています。 視野の端には6台の撮像カメラがついており、視野の導入やガイドに用いられます(詳細はこちらのページをご覧ください)。 主焦点装置の上には3つ(連続光のランプ2つと輝線ランプ2つ)の較正用ランプがついており、ドーム棟天井に付いているスクリーンを一様に照らすことができるようになっています。

主焦点装置の開発は中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)、カリフォルニア工科大学、プリンストン大学、ブラジルコンソーシアム、国立天文台、カブリIPMUで行っています。 主焦点装置は2021年にハワイ観測所に輸送されました。

ファイバーポジショナー"Cobra"

2400本の光ファイバーの端面はファイバーポジショナー(愛称"Cobra" )によって焦点面で目的の天体の位置に正確に合わせられます。 コブラは2つの回転軸を持つアクチュエータで、New Scale Technologies 株式会社で製造されました。 一本のファイバーの可動範囲は直径9.5mmの円形で、それぞれのファイバーは8mm間隔の蜂の巣状に並べられます。 可動範囲が隣のファイバーの可動範囲と重なることで、6角形の視野の100%の領域を確保します。

ファイバーポジショナー "Cobra"の試作品の動画

主焦点装置に取り付けられた2400本のコブラの動画

分光器 Spectrograph System (SpS)

分光器 4台の分光器を用いて2400個の天体を同時に分光観測することができます。 それぞれの分光器内では2枚のダイクロイックミラーによって青、赤、近赤外の3チャンネルの受光器で分光観測を行い、0.38μmから1.3μmという広い波長範囲をカバーします。 VPHグレーティングを使用した低分散の波長分解能ですが、赤チャンネルには中分散モードへの切り替えも行えるようになっています。 (詳細はこちらのページをご覧ください) また、分光器にはファイバーポジショナーを動かす時に使用するファイバーを後ろから光らせる為の光源装置がついています。

分光器の開発はマルセイユ天文物理研究所(LAM)とパートナーのWinlight System、ジョンズ・ホプキンス大学(JHU)、プリンストン大学、ブラジルコンソーシアム、カブリIPMUで行っています。 1台目と2台目の分光器(ともに青・赤チャンネルのみ)は2019年、2021年にハワイ観測所に輸送されました。 2023年の前半に近赤外カメラ2台がハワイ観測所に輸送され、先に組み上げらていた分光器に取り付けられました。 さらに、3台目の分光器と4台目の分光器(青・赤チャンネルのみ)は2023年にハワイ観測所に輸送されました。

分光器はすばる望遠鏡のドーム棟4階に特設されたクリーンルームに設置されています。 このクリーンルームでは光学系を安定させるために内部の温度が 5 +/- 1 ℃ になるように管理されています。

メトロロジカメラ Metrology Camera System (MCS)

メトロロジカメラ メトロロジカメラはすばる望遠鏡のカセグレン焦点に取り付けられ、主焦点にある全てのファイバーの位置を一気に測定します。 メトロロジカメラは大フォーマット (8960 pixels x 5778 pixels) CMOSカメラを用いて一回の露出で2400本のファイバーの画像を取得します。 メトロロジカメラの主鏡の大きさは、補正光学レンズWFCの局所的な表面誤差の影響をなまらせるために直径は380mmほどあります。

中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)がメトロロジカメラの開発を行いました。 メトロロジカメラは2018年にすばる望遠鏡に輸送されました。

ファイバーシステム

ファイバーシステムは約2400本の光ファイバーからなり、広視野補正光学系WFCを通って焦点面に結像した各天体の光を、ドーム棟のクリーンルームに設置された4台の分光器へと運びます。 装置開発や運用を簡単にするためにファイバーシステムは3つの部分に分けられています。 一つは主焦点装置に&quat;コブラ"と伴にファイバーモジュールとして搭載され、一つはファイバースリットとして分光器に搭載され、そしてもう一つは主焦点装置と分光器をつなぐ長いファイバーケーブルとして望遠鏡に取り付けられます。 ファイバーの全長は65mあり、600本ずつ、4組にまとめられてそれぞれの分光器へと接続されます。 2400本の観測用ファイバーの他に、ファイバーケーブルの接続を確認するためのファイバーが組み込まれています。

ファイバーケーブルの開発はブラジルコンソーシアム、プリンストン大学、カブリIPMUで行っていますが、長いファイバーケーブルの第一段階の製造はPPC Broadband株式会社で行われました。 1本目、2本目のファイバーケーブルはそれぞれ2020年、2021年に、3本目と4本目のファイバーは2022年にハワイ観測所へ輸送されました。

夜光測定器 (SuNSS)

SuNSS 夜光測定器SuNSSは口径35 mm の2つの小型望遠鏡と約1mの短いファイバーケーブルで構成され、すばる望遠鏡の頭部スパイダー部分に取り付けられています。 空からの光は短いファイバーケーブルを経由し、望遠鏡に搭載されているPFSのファイバーケーブル、そして分光器へと伝達されます。 このようにして他の観測を邪魔することなくドームが開いている限りPFSを使って夜光の様子を観測することができます。 SuNSSの視野やF値はPFSと同じになっています。 片方の望遠鏡 (imaging mode) では夜空をそのまま観測し、もう片方の望遠鏡 (uniform mode) の望遠鏡では拡散素子を使って視野内で一様にした夜光を観測します。 どちらの望遠鏡も127本のファイバーが取り付けられており、1台の分光器で254本のスペクトルが撮れるようになっています。

SuNSSの開発はプリンストン大学とブラジルコンソーシアムが行いました。 SuNSSは2021年にハワイ観測所に輸送されました。